ムーミン研究家森下圭子のフィンランド便り

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フィンランドは今年が独立100年。愛知芸術文化センターで5月13日にお話させていただく時にも、その100年の人々の暮らし方、独立までの道のりで芸術や文化がどんな力を発揮していたかなども紹介させていただけたらと考えている。

自然との共存は、デザイナーに限らず、フィンランドの人たちに欠かせない生き方。自然を尊び、楽しみ、学び、自然から自分の個性を発見したり育てたりする環境。その中で、ある者はデザイナーになり、ある者は看護師になり、ある者はバスの運転手に、あるいは大工になったりする。

フィンランドの暮らしの中で育まれてきた文化を、自然との共存のあり方を、数多くの芸術家やデザイナーは、それぞれの分野で形にしてきた。カイ・フランクは人々がそれまで使っていた伝統的な食器に合う新しい食器を、ヴオッコの服は、女性たちのこれまでの生き方を象徴するようでこれからの生き方に背中を押してくれるようなものをデザインした。彼らは画期的なデザインをしているけれど、それぞれフィンランドの風土や暮らしがあってこそだ。

芸術家や建築家、デザイナーが人々の暮らしに寄り添うというのは、実はフィンランドの独立前夜の、芸術の黄金時代と呼ばれた時に特に盛んだった。人々の力を信じ、さらに私たちは一国として独立するに足る国であるという独立への機運を高めるのに、「当たり前の日常」の中に潜む美しさや力を、芸術家たちは人々にわかるようにしたとも言えるだろう。

デザイナーたちの話を聞いていると、いかに日々の暮らしを大切にしているかということを改めて感じる。人によって春が来たと感じるきっかけはまちまち。でも、街のそこここで「春が来ましたね」と言葉が交わされるようになると、ある人は頬に触れる風に春の深まりを感じ、ある人は、日毎に葉を大きくする若葉越しに眺める森の向こうの太陽に春の眩しさを感じる。カモメたちが街を我が物顔で行き来するようになり、夜遅くまで聞こえてくる鳥のさえずりに、春の深まりを感じる。こうして春の訪れを喜びながら、ふと、何かが浮かんでくる。

フィンランドのデザイナーたちの取材をしていて思うのは、彼らは奇をてらうことなく何とも自然で、そして彼らは個性的だけれど、デザインされたものは人々の暮らしに馴染むものを作るなあということ。そしてその秘密は、自然との共存のあり方にあるのだろうと思う。自分の個性を育み、他者と自分を結びつけてくれる自然。

デザイナーたちの言葉も交えつつ、13日には自然とデザイナーだけでなく、フィンランドそのものの生き方、価値観などのお話ができればと考えています。土曜日の13時半から。どうぞよろしくお願いします。

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森下圭子(もりした・けいこ)さん略歴

1994年秋に渡フィン。ヘルシンキ大学にて舞台芸術とフィンランドの戦後芸術を専攻。現地での通訳や取材コーディネート、翻訳などに携わりながら、ムーミンとトーベ・ヤンソンの研究を続けている。映画「かもめ食堂」ではアソシエイトプロデューサーを務める。ヘルシンキ在住。

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