ムーミン研究家森下圭子のフィンランド便り

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フィンランドの国民酒とも呼ばれるコスケンコルヴァ。こんなところにもデザインが光る。タピオ・ヴィルッカラのデザイン。

フィンランド・デザイン展はいよいよ最終会場での展示が始まった。宮城県美術館での展示は約2か月。あと1か月ほどで一年かけた巡回が終わろうとしている。

フィンランド・デザイン展は5つの博物館・美術館で展示されてきており、会場によって展示のしかたも随分と違っていたという。仙台会場は歴史的な流れが分かりやすい構成で、歩きながら、時代を追って少しずつ人々がどんなデザインのどんな環境の中で生きていたのかを体感させてくれるような感じだ。

なんとなく足がとまる場所がある。少し開けていて、タイトルに目をやると、「フィンランド・デザインの完成」とあった。そこにはミュージアムピースと呼ばれる、博物館や美術館にあるようなものから、今もお店で普通に買える品物もある。ミュージアムピースにしても、いま私たちが使っているものの原型だったりして、馴染みがある。

フィンランドのデザインは、フィンランドの暮らしの中に、日常のなかに根付いている。都市でも地方の小さな村でも、家庭や公共の施設を問わず、訪れる先にフィンランドのデザインが待ち受けている。親の代から受け継がれた博物館にありそうなものも含め、それらは人々の日常の中で愛用されている。

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フィンランド・デザイン展の最終会場は宮城県美術館。実際にイスに座れるコーナーは、写真撮影もできる。

最近立て続けに日本からの視察の通訳で施設を伺うことが多かった。先日「これはデザイン重視ということなのでしょうか」と聞かれたけれど、デザインを重視というより、ひとりひとりが心地よいと思う空間を望むと自然とそうなると考えたほうがいい。

ヘルシンキから1時間ほどの町の保健施設を訪れたときのこと。そこは新しい試みとして、施設のスタッフたちの意見を設計段階から細かく反映していったのだという。カウンセリングにも会議やセミナーにも使える部屋を見てみると、「心地よく」「明るく」しかも「実用的な」作りになっている。みんなデザインを重んじたのではない、その部屋をどんな風に使うか考えながら、自分がより気持ちよくさらに効果的に使うことを考えた結果として、そこはデザインに優れた空間になったに過ぎないのだ。

フィンランド・デザイン展は、宮城会場でも実際にイスに座れるコーナーがある。そこには椅子の先入観をとっぱらって「座る」を新しい視点で体験させてくれるエーロ・アールニオの椅子があり、子供たちが自分なりの座り方でイスを存分に楽しんでいた。誰に教えられたわけでもないのに、アールニオが願ったように、子供たちは次々と座り方をあみだしていた。優れたデザインのある日常を改めて想像してみる。自分の使い方を自由に考える、季節に合わせてカーテンを変える、優れたデザインを組み合わせながら自分だけの空間を作っていく。

フィンランドの人たちはどうしてあんなに心に余裕があるのでしょう、癒し力があるのでしょう、なんて聞かれることがよくある。フィンランド・デザインの完成から、日常には当たり前のように優れたデザインがあり、人々はその中で自分らしく生きてきた。デザインを意識して暮らしているのでなく、心地よい暮らしを作るときに、当たり前のようにデザインがある。こういうところから国民性って生まれてくるのかなと思う。

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森下圭子(もりした・けいこ)さん略歴

1994年秋に渡フィン。ヘルシンキ大学にて舞台芸術とフィンランドの戦後芸術を専攻。現地での通訳や取材コーディネート、翻訳などに携わりながら、ムーミンとトーベ・ヤンソンの研究を続けている。映画「かもめ食堂」ではアソシエイトプロデューサーを務める。ヘルシンキ在住。

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